下山者の叫び

富士山。
それは、日本の象徴とも言える存在。

8合目より頂上は、ほぼ無心だった。
特に9合目からは、高山植物も消え、辺り一面屈強な岩だけが富士を表している。


僕の疲れはピークに達していたが、8合目から我慢していた尿意が、9合目の小屋が土砂で埋まっていた為、そんな岩しかない道をダッシュで駆け上がって頂上まで着いた。



現在の時間、午後6時。実に9時間かかってたどり着いた頂上である。
さすが、3700Mだけあって、景色は素晴らしく、普段上を見上げて見る雲も、今や下で見下ろす事ができる。
天下取った感さえそこにはあった。


しかし寒い。何度かわからないが、Tシャツ、ジャージ、フリース、この3点ではとても防ぎきれない。おまけにもう午後6時、頂上にそれほど滞在する事なく、僕たちは下山し始めた。


40分で8合目。さすがに下りは早いなどと考えていたが、あたりは既に暗く、ライトを付けながら下山。
周りが見えない下山は、非常に体力を使う。
下山道は足場が砂みたいな感じなので、1歩1歩滑らないように下山する。


これが、9時間登ってきた足に響く。
30分で靴擦れした足は、今やどこが靴擦れしてるのかわからない位痛い。

あたりは暗く、自分たちが山のどこらへんに位置しているのかわからない精神的苦痛。

おまけに、帰る方向を示すものは下山道の立て札1つである。
真っ暗な中、立て札1つを5人の大人が信じて下山していた。
もし誰かによって、立て札を逆向きにされていたなら、確実に遭難である。

そんな状況でも極力前向きに考えている僕たち。しかし時にはあだとなる。

「もう6合目位じゃない?」

なんて言ってるそばで、じつはまだ7合目だった事が判明した時には、ここで泊まってやろうかなんて思ったりもした。


まさに体力勝負を越えた精神的な勝負になっていることは言うまでもない。
あえていうなら、その精神力をも越えた、ある意味仏の境地に達していたと僕は思う。


しかし、そんな僕たちを励ましたのは、やはり富士の大自然。まったく何も見えない中、上を見上げると一面の今まで見たことのない星の数。どれが、飛行機かわからない位の星空である。


そんなこんなで下山したときは、午後11時。
実に14時間の長旅であった。